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北朝鮮核実験報道の思考停止

 北朝鮮による3回目の核実験はアメリカのオバマ大統領が今年の施政方針を述べる一般教書演説の前日に行われた。その1日前に北朝鮮は核実験の実施をアメリカ、中国、ロシアに同時に事前通告している。これまで中国への連絡を最優先にしてきた北朝鮮が今回はアメリカをより強く意識している事が分かる。

 それは核実験の1か月前に行われた長距離ミサイルの発射実験に成功した事と無縁でない。この実験で北朝鮮はアメリカ本土に到達しうるミサイル技術を持つ事を世界に示した。そのミサイルに小型の核弾頭を取り付ければアメリカ本土を核攻撃できるという「理屈」が成り立つ。従って北朝鮮は今回の実験で「小型化に成功した」事をことさら強調した。

 ことさらに強調してみせるのは少しでも有利な形でアメリカとの戦争状態を終わらせたいためである。我々は朝鮮戦争を過去の「終わった戦争」と考えがちだが、実際には終わっていない。休戦したままの状態である。北朝鮮にとって強大な軍事力を持つアメリカとの戦争をどのように終わらせるか終わらせないかが国家の死命を決する話なのだ。

 平和ボケした日本人にはなかなか理解しにくいが、戦争をしている相手との戦いをやめる時には、より激しく相手を叩いてからやめるというのがセオリーである。昭和20年に敗戦を覚悟した日本軍が最後まで「本土決戦」にこだわったのは、それで勝てると思ったからではない。アメリカに一撃を加えた後でなければ敗戦の条件が不利になると考えたからだ。

 アメリカもベトナム戦争に敗れた時、和平の見通しがついた後で北爆をより一層激化させた。力のあるところを見せつけないと和平交渉が有利にならないからである。従って平和ボケしていないアメリカは、今回の北朝鮮の一連の行動を「対話への熱望」と見ているのではないか。

 そうであれば簡単には乗らないのが外交のセオリーである。相手が言い寄ってきた時には冷たくあしらう方が「熱望」を倍加させて交渉を有利にする。だから強い言葉で北朝鮮を批判し、交渉に応じない姿勢を見せる。オバマ大統領の一般教書演説を聞くと、この問題をアメリカが最重要と捉えている様子はない。日本のメディアだけが部分を切り取って大げさに伝えている。

 ミサイルと核実験に成功したと言っても、北朝鮮が現実に小型の核弾頭を取り付けたミサイルを発射することなど現段階で出来る筈がない。地上からミサイルを発射すればそれはアメリカの衛星によって逐一把握され発射直後に破壊される。冷戦時代にはソ連が地下にトンネルを掘ってミサイル発射場所を特定できないように移動させた事もあるが、探知されないためには海に潜った潜水艦から発射するしかなかった。

 それには長時間潜水可能な原子力潜水艦が必要で、冷戦末期に米ソは広い太平洋を舞台に原子力潜水艦を探知できないように航行させ、その原子力潜水艦の補給基地を巡って太平洋の島々はCIAとKGBがしのぎを削る情報戦の前線になった。北朝鮮はソ連ほどの軍事力を持っておらず、アメリカにとっての懸念は中東などに核技術が流出する事である。

 そもそも北朝鮮の核疑惑はソ連崩壊が契機となって発覚した。アメリカがソ連の核技術の拡散を懸念し、核拡散に焦点が当てられた時に北朝鮮の核開発が問題になった。国際社会が核施設を査察しようとすると北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)から脱退し、インドやパキスタンと同じように核保有を目指した。

 阻止するためにはその時点で北朝鮮の核施設を破壊する必要があった。クリントン大統領は爆撃を決断するが、爆撃すれば北朝鮮の反撃で韓国が甚大な被害を受ける。韓国の反対もあり爆撃は直前に回避され、カーター元大統領が訪朝して米朝対話路線が生まれた。こうして北朝鮮を支援する「米朝枠組み合意」が締結される。

 しかしその後も北朝鮮は核開発を続け、03年に再度NPTを脱退、06年に1回目の核実験を行った。その時アメリカのブッシュ政権はイラク戦争を理由に北朝鮮の核問題を中国主導に委ねる。その間に北朝鮮の核開発は進歩を遂げ、アメリカが爆撃破壊する事も難しくなった。アメリカは北朝鮮の核保有を事実上認めたのではないかと私には思えた。

 冷戦後の初期には「残された最後の分断を終わらせる」として、朝鮮半島の統一をアメリカ大統領の使命と考えた時期もあるが、そのうち統一させない方が国益になると変わった。日本と韓国にアメリカのプレゼンスの必要性を感じさせ隷属させられるからである。中国にとっても統一された朝鮮半島がアメリカ寄りになるのでは困る。朝鮮半島を分断させておく事は米中両国の利害と合致した。

 そして北朝鮮の脅威はアメリカの軍産複合体に日本に兵器を売りつける絶好の機会を提供した。かつては国民の反対を懸念して自民党が購入を拒んだミサイル防衛などに日本国民の抵抗がなくなり、北朝鮮の存在は日本を世界最大の兵器ビジネス国家アメリカの思い通りの方向に導いたのである。

 そしてそれを補強しているのがメディアの報道姿勢だ。誰も反論できない「正論」らしき論説を展開して日本をアメリカ隷従に押し込める。核保有などもっての他だー被爆国日本では誰も反論できない。戦争は悪だー敗戦国日本はそれも反論できない。日本は平和を尊重するーますます反論できない。こうして結論はアメリカに守ってもらうしかないというお定まりの結論になる。

 しかし誰も反対できない論理を繰り返していると人間は思考を停止する。戦争は悪だ。平和は尊い。過ちは繰り返しません。あの戦争についての結論がそれでしかないと戦争について考える事をしなくなる。そうして戦後の日本人は現代史を直視しないままになった。北朝鮮の核実験報道を見ているとそれと同じ事を感じる。

 かつてキッシンジャー米元国務長官は「脅威が現実になれば日本人の平和主義など一夜で変わる」と断言したが、思考を停止すればお定まりの結論が正反対になる事もありうる。国際社会と協力して北朝鮮を制裁するのは当然としても、日本にとって地政学上最も重要な朝鮮半島について、日本が主体的になしうることは何かを議論しないのが不思議である。なぜアメリカ任せ、中国任せで済むのだろうか。

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コメント (6)

勉強になりました。本当に同感です。なぜ日本の政治家は、アメリカと中国を日本の国益のために、道具として使わないのだろうか。中国と韓国を嫌いな人が多いが、それのせいで思考が停止しているのではないかと考えています。中国と韓国を日本人の道具として使ったほうが、日本の国益のためになる。敵を嫌う政治家では、日本の国益が守られないと考えています。アメリカとロシアは軍事強大国ですが、外交次第ではその二国を日本の道具として使うこともできる。しかし、それをする政治家をなかなか見ることができない。田中さんの記事を読む度に政治について深く理解できるようになりました。

〈田中良紹様〉
こんにちは。このコメントが掲載されるか否かは神のみぞ知るだけど書いてみます。
全くおっしゃる通りでマスコミや隷米右翼だけでなくリベラル勢力に強く「戦争反対、憲法違反の自主防衛反対」の傾向が強くあり、保守政治家小沢一郎と言うと「何を言うか小沢は左派だ」と仲間内で反論されるに至っては「未来の党」で失った保守票300万票の大きさに愕然として気を失いそうになります。
一方向に誘導される日本人の特性は何ら変わらず短いフレーズに集約されます。「政治と金」「決められる政治」「脱原発」…こんな短いスローガンで括れるはずはないのです。いつ「欲しがりません勝つまでは」「非国民」に誘導されてもおかしくありません。モノ事はもっと複雑怪奇です。
東アジア情勢で言えば中国に支配され続けた歴史から朝鮮の方々は中国が嫌いだし中国は朝鮮をバカにしています。表面上は「反日」の共通言語を使っていますが、それは米国が喜ぶからです。
北朝はいつも絶妙のタイミングで軍事行動を起こし軍産複合体を喜ばせます。今回は完全に回避されてない財政の崖による軍事費削減の直前に核実験をやりました。
中国支配から脱して米国と国交を回復したいというメッセージです。北朝の成り立ちと密接な関係がある岸の孫が総理というのは歴史の必然を感じます。
北朝と日本の統合すらあり得るかもしれません。

〈田中良紹様〉
こんにちは。このコメントが掲載されるか否かは神のみぞ知るだけど書いてみます。
全くおっしゃる通りでマスコミや隷米右翼だけでなくリベラル勢力に強く「戦争反対、憲法違反の自主防衛反対」の傾向が強くあり、保守政治家小沢一郎と言うと「何を言うか小沢は左派だ」と仲間内で反論されるに至っては「未来の党」で失った保守票300万票の大きさに愕然として気を失いそうになります。
一方向に誘導される日本人の特性は何ら変わらず短いフレーズに集約されます。「政治と金」「決められる政治」「脱原発」…こんな短いスローガンで括れるはずはないのです。いつ「欲しがりません勝つまでは」「非国民」に誘導されてもおかしくありません。モノ事はもっと複雑怪奇です。
東アジア情勢で言えば中国に支配され続けた歴史から朝鮮の方々は中国が嫌いだし中国は朝鮮をバカにしています。表面上は「反日」の共通言語を使っていますが、それは米国が喜ぶからです。
北朝はいつも絶妙のタイミングで軍事行動を起こし軍産複合体を喜ばせます。今回は完全に回避されてない財政の崖による軍事費削減の直前に核実験をやりました。
中国支配から脱して米国と国交を回復したいというメッセージです。北朝の成り立ちと密接な関係がある岸の孫が総理というのは歴史の必然を感じます。
北朝と日本の統合すらあり得るかもしれません。

北朝鮮やアメリカの意図についてのご指摘、これまで考え付かなかった視点でした。とても興味深かったです。その上で、後半部分について意見があります。

メディアの論調として、「戦争は悪だ」「平和を尊重する」よりもむしろ、北朝鮮の脅威がとても大きく取り上げられてきたように思います。それがアメリカからの兵器購入を可能にしたというご指摘はその通りだと思います。

また、「戦争は悪」という結論が思考停止という部分については、「対立の解消には戦争(とそれを背景にした国際交渉)しか方法がない」というのも一種の思考停止であるように思います。

「日本は戦争に関わらない、だから地域の緊張関係はアメリカや中国に任せて日本は追随する」ではおっしゃるとおり思考停止ですが、多大な犠牲を払った経験から得られた「戦争は悪」という結論を尊重し、他の方法で日本がどのような役割を果たせるかを議論するという思考もあるのではないかと思います。

田中 様

論説を読みながら、北朝鮮だけでなく全ての事象に対し、日本人はどのような見方、考え方を基本としているかを冷静に判断すると、極めて曖昧模糊として、幼稚でありずるいとしか見えません。皆と同じになおざりにしている問題に対し問題提起していただき、私も考えてみました。

確かに北朝鮮は拉致問題を抱えているし、根本的に解決しておらず、制裁対象になることは否定できません。では、日本自身は、アジア諸国に対して第二次大戦で日本の侵した事実に対して心から謝罪しているかというと極めて疑問です。

北朝鮮の立場からいえば、補償が棚上げになっていると思っているのでしょう。客観的に言えば、拉致は問題であるが、広島、長崎の原爆はどうなのか、アメリカは謝罪しているか、謝罪していません。強いものには反論しないのでしょうか。非核三原則を掲げながら、アメリカ、中国の核実験は問題ないのでしょうか。

私たちは平和ボケしていますが、お話のように朝鮮半島は休戦状態にあって、物事が全て解決しているわけでなく棚上げになっているに過ぎません。アメリカと北朝鮮は話し合いが進んでおり、話し合いの中で物事が進んでいるのに、日本だけが北朝鮮敵視政策を進めてどうしようとするのか疑問が多い。

人権問題として拉致は大きな問題ではあるが、民族同士の客観的事実を積み上げて判断するとき、拉致を除いたならば、北朝鮮は日本に対してどういう悪いことをしているのか、冷静に考えない人が多いのには驚いています。

特に神奈川県の黒澤知事が学校にたいする支援費6,300万円をカット制裁をするようである。これから日本で生活し、日本のために働いてくれるであろう若者に対し、この仕打ちは心の傷となって重くのしかかる恐れがあります。物事の判断が短絡的に極端に偏る国民性は、キッシンジャー氏だけでなく、オバマ大統領も日本政府の愚かさにあきれているだけでなく、どのように対応したらよいか困っているのではないかと、想像しています。

読んでいていろいろなことを考えさせられる(いろいろなことを言いたくなる)論説、というのは大変貴重です。
田中さんの結論(という性質のものでは無いかも知れませんが)の「日本にとって地政学上最も重要な朝鮮半島について、日本が主体的になしうることは何かを議論しないのが不思議である。」という点に関しては、私も同じように感じています。
これからの世界を考えるとき、世界のこれまでの歩んできた足跡(歴史)の重要性を十分認めたうえで、それをそのまま将来(未来)に投影する、という姿勢だけでは何か足りないんだろうな、という事は漠然と感じます。たぶん世界(人類)は新しい段階に入りつつあるのだろうと思います。
そういう余計なことを感じた目で今の「政治」をみると、政治家の皆さんはなんと危機感のない方々なのだろうと映ります。
蛇足ですが、破綻した論理を国民に押し付ける為政者や報道は、枚挙に暇がないほどおおいですね。政治(人間の生活)に「論理」はなじまないのかも知れませんね。

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

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日本初の政治専門チャンネル!
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http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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