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北朝鮮核実験報道の思考停止 »

権力者は担いでくれた恩人を切る

 政治を見ているとつくづく権力とは非情なものだと思う。党内基盤の弱い権力者が長期政権を目指すためには、自分を権力者に担ぎ上げた恩人を必ず切り捨てる。それが出来ない権力者は短命に終わる。

 戦後の日本で長期政権を実現したのは、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎の4氏だが、吉田、佐藤が強い党内基盤を持っていたのに対し、中曽根、小泉の二人は弱小派閥にもかかわらず権力者となり、しかも長期政権をものにした。二人に共通するのは自らを権力者に担ぎあげた「恩人」を切り捨てた事である。

 自民党傍流で少数派閥の中曽根氏が総理に就任したのは何よりも自民党最大派閥を有する田中角栄氏の支援を得たからである。ロッキード事件で無罪を勝ち取ろうとしていた田中氏は、この事件で大きな「貸し」のある中曽根氏を総理に据え、その政治力を利用して復権を果たそうとした。

 「田中曽根内閣」と言われたように、中曽根総理は田中氏の操り人形となり、人事も政策も田中氏の言う通りにした。しかし中曽根総理はただの操り人形ではなかった。総理就任以来、田中氏の力を削ぎ自らが自立する道を虎視眈々と狙っていた。そのための一つが戦後の日本をコントロールする「横からの力」アメリカに取り入る事であり、もう一つは田中派を分断する事であった。

 前任の鈴木善幸政権が「平和主義」を唱え、アメリカとの間で摩擦を起こしていた事を奇禍として、中曽根氏は「日米は運命共同体」、「日本列島を不沈空母化する」などの発言でレーガン大統領の歓心を買った。かつて「民族自立」を訴え、日米安保体制を批判した政治家とは思えぬほど中曽根氏は「日米同盟強化」にまい進した。

 そして中曽根氏は、田中派の中でも中曽根嫌いで有名な金丸信氏に総理就任直後から接近を図る。銀座の料亭で土下座をし「あなたを必ず幹事長にする」と約束して、田中氏に対する秘かな造反を促した。3年後に金丸氏は竹下登氏の背中を押して「創政会」を結成、田中派が分裂含みになる中で田中角栄氏は病に倒れ政治生命を失った。

 こうして中曽根氏は自らを総理の座に就けてくれた田中角栄氏を切り捨てた。田中支配から脱した中曽根氏は5年に及ぶ長期政権を実現する。しかし金丸氏は中曽根総理のために「田中切り」に協力した訳ではない。金丸氏は田中支配を終わらせ、日本政治の「世代交代」と、政権交代可能な「政治制度」の構築を目指した。

 従って田中なき後の金丸氏の矛先は中曽根総理に向かう。さらなる長期政権を目指した中曽根総理だったが竹下氏に禅譲せざるを得なくなった。こうして竹下政権は誕生する。金丸氏はいわば「生みの親」である。すると長期政権を目指した竹下氏はその「生みの親」を切り捨てるのである。

 竹下総理の就任直後、金丸氏が激怒する事件が起きた。金丸系列の県会議員が汚職事件で摘発されたが、摘発を知っていたはずの竹下総理が自分に連絡してこなかったと言うのである。それからすぐに金丸氏は突然「政治家は一代限り。世襲は認めない」と発言する。誰かが地元で「金丸引退。息子に世襲」の噂を流したと言う。

 噂の元を金丸氏は竹下総理と見ていた。総理の座に就くと「生みの親」は煙たい存在になるらしいと金丸氏は言った。二人は子供同士が結婚しているので姻戚関係にある。表面では連携しているように見せながら、見えないところで政治の戦争が始まった。それが最大派閥「経世会」の分裂につながる。

 そうした流れを見てきた私は、「自民党をぶっ壊す!」と叫んだ小泉純一郎氏が総理に就任した時、「生みの親」をどうするのかと思った。自民党内で小泉氏は弱小勢力であり、国民的人気の半分は応援を買って出た田中真紀子氏の力である。その真紀子氏は「変人総理の生みの親は私だ」と発言していた。小泉総理が長期政権を目指すなら必ず真紀子氏を切るはずである。

 そう思っていると、「外務省改革」に熱心になった田中真紀子外務大臣は、外務官僚や鈴木宗男議員と戦争を起こす。その挙句に喧嘩両成敗で退任させられた。すると鉄は熱いうちに打てと言わんばかりに秘書給与疑惑が発覚し、真紀子氏はさらに議員辞職に追い込まれた。それらは一貫した権力行為に私には見え、小泉長期政権の可能性を感じさせた。

 小泉政権の後を受けた安倍晋三総理に私は「権力者になりきれない総理」の姿を見た。盟友の麻生太郎氏を幹事長に起用しようとして派閥のオーナーである森喜朗氏に相談に行き、拒否されて中川秀直氏を押し付けられたからである。しかもその話が表に出た事に私は驚いた。この一件で安倍氏には権力者の片鱗もない事が分かった。案の定、最後は無様な退陣劇を演じる事になった。

 第二次安倍政権は報道だけ見れば順風満帆である。円安、株高に報道の焦点が当たっている事と、参議院選挙までは何が何でもぼろを出さずに行こうとする自民党一丸の総力体制があるためである。しかし私にはまだ安倍総理が長期政権を担える権力者には見えない。

 安倍総理は自民党総裁選挙で自民党員に嫌われた石原伸晃氏と国会議員に嫌われた石破茂氏の消去法によって選出された。連立を組む公明党との間にも隙間がある。いわば吉田・佐藤型ではなく中曽根・小泉型である。長期政権を実現しようとすれば「生みの親」を切るだけの非情さが必要となる。

 第二次安倍政権の「生みの親」を自認しているのは麻生太郎副総理で、現在は緊密ぶりをアピールしている。しかしその緊密さが長く続く保証はない。民主党政権との違いを見せつけるパフォーマンスで安倍政権はここまで乗り切ってきたが、前政権の記憶が薄れてくると、「ロケットスタート」のために受け入れた八方美人的な政策の付けが回ってくる。

 その時に「生みの親」と総理との間に確執が生じるというのが私の見てきた権力者の世界である。総理が「短命でも良い」と言えば問題はないが、自分の政策にこだわればそうはならない。第一次安倍政権での安倍・麻生関係には「脱小泉」という共通目標があって緊密さを維持した。しかし今や党内に敵は見えない。まして野党不在と思えば権力はそのように動き始める。そして「権力者になりきれない総理」であればそれが薄氷を踏むことにつながるのである。


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■2月癸巳田中塾のお知らせ

田中良紹さんが講師をつとめる「癸巳田中塾」が、2月27日(水)に開催されます!

田中良紹さんによる「政治の読み方・同時進行編」を、美味しいお酒と共に。

ぜひ、奮ってご参加下さい!

【日時】
2013年 2月27日(水) 19時〜 (開場18時30分)

【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml

※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で忘年会を行います。

【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。

忘年会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

【アクセス】
JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、記入欄に「年齢・ご職業・TEL」を明記してお申し込み下さい。

21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。

http://www.the-journal.jp/t_inquiry.php

(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

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コメント (5)

田中 様

主従関係、親子関係でも同じことが言えるのではないか。東西古今に亘って、先に生まれた人に追いつき、追い越すのは世の常であり、対等レベルに至るためには、忍を忍んで研鑽練磨する必要性は代わることがありません。

自分の生き方に自信がもてるようになり、自分の信念を通そうとしたら、恩師が邪魔になるのは、仕方ないことなのでしょう。

安倍総理は、それにしても店を広げすぎてしまった。全てがうまく行くことはなく、また、うまくいかなければ、お話のように、自民党内部で離反者が続出するし、野党、マスコミの餌食となっていくのでしょうか。

最近の総理は、鳩山氏、菅氏、野田氏とも思い込みが激しく、バランス感覚の欠如が多く見られます。全体を鳥瞰するとか、全体を包摂するおおらかさが欠け、一途さばかりが目立ちます。

一呼吸置いて、じっくり物事に取り組む積極さの中に、慎重な姿勢を望みたいのですが、言葉が全ての世の中では致し方ないのでしょう。残念なことです。

まあ、都合のよい資料を集めれば、結果論としてはそうなるのでしょうけど・・・それならばお訊きしますけど、

民主党政権交代の最大の功労者である 小沢一郎氏 を切った、鳩山氏、菅氏、野田氏の政権がいずれも短命に終わった

のはなぜでしょうか?

〈田中良紹様〉
論説を拝読し、小沢一郎の現在の窮状が予めなるべくしてなった事が理解できました。
細川政権を担いだ時は武村と細川に疎んじられ、鳩山を担げば政策に口出し無用にされた。
幹事長と副総理兼務の約束も反古。
一体、田中角栄や金丸信から何を学んだのかと思う。いつも神輿を担いで後ろに下がればやられるのが道理。彼の行動原理そのものが裏切りを内包している。
プロ棋士の小沢一郎の囲碁の特徴を聞いた事がある。
一言でいえば受ける囲碁。受けて受けて我慢して、ともすると勝機を逃すと…小沢一郎がともすると政局に弱いのは彼自信の性格が影響してる気がする。
だけど不器用でお人好しの小沢一郎が好きなんだから仕方ない。

先の田中さんの記事への投稿で、アラン・ブースさんが、「今後の安倍総理大臣の経済政策を見守って行きたい」と述べておられたが、私はまず日銀総裁を誰にするかではないかと思う。岩田規久男教授か、中原伸之氏、同じ慶応でも竹森俊平教授にでもできるようなら幾分本気かなと思えるが、またぞろ竹中平蔵氏あたりを連れてくるようではと思います。要するに「見守るまでもなく」すぐ分かることではないですかね。

田中良紹さん
非常に秀逸な日本政治の権力譚にお礼を申し上げます。

此のように権力者変遷の歴史を俯瞰すると、無邪気な田中女史は別枠として、「最近の政治権力者は小粒になったなぁ」と感じるのは私の錯覚なんでしょうか。
同時に、もっと卑近には、「麻生某」が安倍政権の生みの親とは!麻生某本人はそう間違いなく思いたいし思っているでしょうが、安倍某はそう思っているのでしょうか?
仮に実際に安倍某がYesだと思っており、自民党内の動きも然りであったのなら、「日本の政治権力者も生みの親も小粒になったなぁ」という感慨が湧く。此れも私の錯覚なんでしょうか。

麻生某に関しては、田中ルールに従って切られたとしても、其れは後顧の憂いを絶つための権力闘争の結果と云うよりも、安倍某の怜悧な人事判断だと思います。
「老歪に染まり始めた麻生」を放擲することが国家国民の為だと思う私にとっては、安倍某がその「怜悧な人事判断」を実行出来るのか?に寧ろ興味がある。
草々

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
↓ ↓ ↓
国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

→ブック・こもんず←



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